Ryuz's tech blog

FPGAなどの技術ブログ

転職して一ヶ月が経ったので前職を振り返ってみます

はじめに

2024年3月末日を持って23年半ほど勤めた会社を退職して転職を致しました。

今回で転職は二度目になるのですが、余りに長くいたのでいろいろな思いもあり、ちょうどGWで振り返るにも丁度よいタイミングですので、少し総括しておきたいかなと思います。

勤めていた会社は、いわゆる大手電機メーカーと呼ばれるところであり、モノ作りを生業とする古き良き日本企業でありました。

一方で、基本的にはハードウェアの会社であり、良いところもあるし、JTC(Japanese Traditional Company)と揶揄されるような側面もありました。これは別に前職に限った話ではなく、日本の多くの大企業に共通する要素だったのではないかと思います。

変わろうとする経営陣

そんな前職でしたが、大きな変革を迎えることになりますが、変化点として大きく二つ

  • ジョブ型雇用への切り替え
  • IT企業になろうと舵を切った

です。 これら二つは私にとっても多いに歓迎すべきことだったですし、刷新された経営陣の元これらは今も推し進められております。

ジョブ型雇用について

ジョブ型雇用の対義語はメンバーシップ型雇用だそうで、まさにメンバーシップ型雇用であった会社が、ジョブ型に変わろうとしておりました。

ジョブ型とメンバーシップ型の違いは下記の人事制度の比較の表が分かりやすかったのでリンクしておきます。

ジョブ型雇用とは?メリットやメンバーシップ型との違い・具体例を解説 | 記事・トピックス一覧 | 法人のお客さま | PERSOL(パーソル)グループ

我が国の産業の歴史としていわゆる集団就職のような事が行われていた時代から、先人の努力の賜物として高度経済成長を経て、現在に至るわけです。終身雇用なる日本独自の概念も生まれ、「家族含めて一生面倒見てやるからとにかく会社の言う事を聞け」という、「滅私奉公」という言葉がよく合うような価値観の時代を生きた先人方の成果が今を支えているのはその通りなのだと思います。

一方でその後の失われた30年と言われる時代を作り出したのも、またこれらの制度であったりもします。労基法20条封印問題などもこのころから顕在化し始めたのではないかと思います。

そういった中で、会社がジョブ型に切り替えようとするのは大変正しい判断だと思います。

一方で、それがすんなりできるのかと言うとそんなに簡単な事ではありません。古くから「滅私奉公」してきた人たちからすれば急に「キャリアは自己責任」と言われても「騙された」という思いになる人もおられたことでしょう。

また実際問題としては人は容易に解雇できませんので、どうしても「新しい事をするにもかかわらず、今いる人たちの出来ることでうまく仕事を作って利益を出さないといけない」という、経営者に対してムリゲーが押し付けられることになります。

ジョブ型の本質として「ジョブを先に定義してそこに後から人をアサインしたい」わけですが、人をあぶれさせるわけにはいかないので、どうやっても「人に仕事をアサイン」して、しかる後に社内帳票だけ「ジョブを作った後に人をアサインした体で記載していく」と言うような事が起こってしまうわけです。

したがってこういった中で経営者側が出来ることとしては

  • リスキリングの為の支援を行う
  • 転職希望者が居れば支援する
  • キャリア採用の間口を広げる

などであり、これらへの投資など含めて、私目線でも大変有能な経営陣であったと思います。

一方で、「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という諺の通り、変わらない人は変わらない という如何ともならない問題は残ってしまっていたように思います(もちろん多くの人たち、特に若い人たちは、ここぞとばかりにどんどんスキルを高めキャリアを伸ばしていましたけどね)。

IT企業になるという事

ご承知の通り、我が国は高齢化とそれに伴う労働者不足と言う未来の危機を抱えており、ありとあらゆるものが IT化され自動化ているのはご承知の通りです。

無人レジはあちこちに設置され、ポイントカードはスマホアプリに変わり、お店や病院などあらゆる予約もどんどんWeb化されています。IT人材不足でIT技術者の価値は年々高まっているのはご承知の通りでしょう。

こうした中で、これから利益を出していくうえで「リスキリングしてIT企業になろう」と言うのは決して間違った考え方ではないと思います。

実際いままで殆ど投資されてこなかった社内のソフトウェア開発環境は一気に近代化され、CI/CD をどうやるかを議論できる土台が一気に出来上がりました。

研究開発職の私にとってもこれはとても有難いことで、「普通に GitHub で開発できる」という環境にゴキゲンで仕事をしていたわけです。

そこで起こった事

そういった中で、どういう事が起こったかなのですが、会社が IT企業を目指したことにより、リスキリングが推奨されつつも、当然ながら IT系のテーマへの投資は増え、非IT系のテーマへの投資は減っていったわけです。

「非IT系のテーマの為の限られたパイを奪い合う」という事が当然起きてきます。奪い合いの相手は前述の 変われなかった人々 も含まれてきます。

ご存じの通り私は、計算機とか、FPGAとか、画像センシング技術とかをメインにやっておりましたので、現状IT系で利益を出す研究とは直結しておらず、非IT系のテーマと言えたかと思います。

ITのビジネスが十分軌道に乗り、課題が計算機になっていればまた話は違ったのかもしれませんが、残念ながらそもそも LLM の学習ができるような計算機資源など持っていない会社でしたので、推論ハードウェアが課題になるようなことも無かったわけです。どうしても製造装置向けの画像センシングなどモノづくり側しか出口を持たない研究になってしまって苦しい戦いになっておりました。

私の選択肢として

  • ジョブをIT系に変える
  • パイの奪い合いに勝つ

の2つがあったわけですが、折角の計算機の知識を活かさないのももったいなく、かつ、後者もなかなか不毛な戦いになることが見えてきたので結局第三の道を模索し始めて今日に至るわけです。

後者でパイを奪い合う方々は「今更ITもできない、でも、クビになっても再就職のアテも無い」という背水の陣の方々も少なからず含まれます。彼らはメンバーシップ型を根底に生きてこられた方々ですので派閥的なある種の組織が出来上がっていたり、仲間を守ろうとする思いの強い方々が多かったようには思います(悪意よりも、善意で動く人々の方が敵に回すとむしろ恐ろしいのです(苦笑))。

私なぞはどちらかと言うと元々がジョブ型思考の個人主義だったのと、「いざとなればどこでも行けばいいや」という尻の軽さもあり、不毛な争いをするぐらいならということで、早々に自分のスキルを活かせる道を探し始めました。

大企業でしかできなかったこと

そうは言っても 24年近く大企業におり、大企業でしかできなかった経験も沢山させて頂きました。

特に、大規模なお金や人を投入しないとできない研究開発は沢山あり、最先端のFPGAに最先端のデバイスを繋いで壮大な実験をしたり、実証実験として海外の展示会にデモ出展したりと、そこでやったことや知り合った方々や、本当に多くの経験をさせて頂きました。

もっとさかのぼると、入社初期の携帯電話全盛期には、世界最先端のLSIを作る方々の元でいろいろな経験をつめたのも大企業でしかできなかったことだと思います。

一方で、なかなか事業利益の出ていない時代の乏しい研究費での研究開発では「私が趣味で持ってる環境と大差ない」というような年もあり、「給料の為だけに組織に属するなら、どこでもよくないか?」と思うようなこともありました。

本当にいろんな経験をさせて頂いたのですが、けっして給料の為だけに苦労してスキルを身に着けたわけではないので、どういう時期にどういう組織に属して何をやるか というのはキャリアプランを描くうえで大事な事だなと改めて思った次第です。

おわりに

なんだかんだで良い人や良い上司に恵まれ、いい経験をさせて頂いた 24年間だったと思います。ちょうど人生の半分を過ごしました。

最後に大きな会社が変わるさまを見れたのは、得難い体験だったように思います。

人が価値観を変えるというのはすごく難しい事ではありますが、確実に新しい時代に向かっていって欲しいと思います。

特に若い方々の今後の活躍を期待して、私はまた新しい活躍ができるように頑張りたいと思います。